サブ課題A新エネルギー源の創出・確保 – 太陽光エネルギー
太陽電池と人工光合成は重要な低炭素国産エネルギー源
サブ課題 A 目標
サブ課題Aでは、太陽電池と光合成をテーマに、計算科学による励起電子の見える化を実現し、太陽電池の高性能化と人工光合成の実用化に貢献することを目指しています。
励起電子とは、リレー走者がバトンを貰うように、エネルギーのバトンを受け取った電子のことです。電子はいつまでもバトンを持っていることができないので、次々と手渡していくのですが、この過程を通して、電気を取り出すことが可能となります。
太陽電池は既に利用されていますが、光から電気への変換効率の向上と製造コストの低減のため、新しい素材の実用化が求められています。そのためには、未だに良く分かっていない光エネルギーから電気エネルギーへの変換過程(前述のバトンの受け渡し)を明らかにする必要があります。
また、植物における光合成は太陽光エネルギーの利用の典型的なものです。光合成では、水と大気中のCO2を使って、酸素と炭水化物を生成しています。この仕組みは、最近の研究で少しずつ分かってきました。植物における光合成を参考にして、人工で光合成を行う研究が実験を中心として進められていますが、光エネルギーによる水分解やその後の炭水化物生成の過程がすべて明らかになっている訳ではありません。
実験では決して見ることができない、光エネルギーを受け取った励起電子の振る舞いを見るため、世界最先端の正確に電子状態を計算できるソフトNTChemと、さらに電子配置を厳密に考慮できる量子化学計算ソフトGELLANをベースに、太陽電池シミュレータと人工光合成シミュレータを開発しています。各シミュレータとポスト「京」の強力な計算パワーを使って、新たな太陽電池、人工光合成の提案や性能の改善に繋げることがサブ課題Aの目標です。
サブ課題 A 概要
高効率太陽光エネルギー変換による新エネルギー源の創出を目指します。複雑なスピン状態を含む天然・人工光合成系の素反応から物質設計までを取り扱える統合的な計算手法を確立し、水分解反応の本質解明と新エネルギー創出に有望な物質の探索を行います。また、太陽電池の物質設計とモルフォロジー・界面の制御に貢献できるシミュレータの開発を行い、高効率太陽電池の実現に向けた計算的アプローチを推進することによって、次世代のエネルギー資源の創出に貢献します。
人工光合成の物質設計と実用化を目的とした光合成シミュレータの開発と、高効率な太陽電池の予測を可能にする太陽電池シミュレータの開発を行います。
光合成シミュレータ
複雑なスピン状態を伴う多核金属錯体の電子状態の正確な取り扱いを可能にする強相関ソルバーの開発を行い、ESRやEDNMRをプローブとした応用に展開します。大規模な量子エンタングルメントを取り扱う新規な理論と数値解法を発展させ、光合成の機構解明をポスト「京」が初めて可能とします。基礎となる天然光合成系はKokサイクルの各酸化状態で水分解サイトの構造決定を行い、反応機構を解明します。半導体光触媒は、大規模な時間依存密度汎関数計算によるバンドギャップと水の酸化還元準位とのバンドアライメント最適化を行います。この光合成シミュレータを用いて、新規光触媒設計と助触媒の最適化の応用研究に取り組みます。
太陽電池シミュレータ
メモリ分割など新規アルゴリズムや領域分割法などの新規理論に基づいた時間依存密度汎関数法を開発し、数千~1万原子規模のドナー・アクセプター界面での電荷分離状態のシミュレーションを行います。さらに、有機電子供与体・有機電子受容体の相互作用と光誘起による電子物性に強く依存する短絡電流密度を飛躍的に増加させる有機物材料の設計指針を明らかにします。この太陽電池シミュレータを用いて、ペロブスカイト太陽電池の光電荷移動機構や自由キャリア機構の解明に向けた研究を行っていきます。
課題説明
サブ課題 A 成果
これまでの成果をご紹介します(2018年03月現在)。
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成果例 032【H30年度】大規模励起状態計算による光励起生成エキシトンの特性解明東京大学 大学院工学系研究科
- 山下 晃一、金子 正徳
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成果例 031【H30年度】大規模励起状態計算による電荷分離過程の解明東京大学 大学院工学系研究科
- 山下 晃一、川嶋 英佑
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成果例 030【H30年度】「京」を利用した元素戦略的なハイスループット・スクリーニング理化学研究所 計算科学研究センター 量子系分子科学研究チーム
- 中嶋 隆人、澤田 啓介
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成果例 029【H30年度】非断熱励起状態ダイナミクス等の開発理化学研究所 計算科学研究センター 量子系分子科学研究チーム
- 中嶋 隆人、嶺澤 範行、米原 丈博
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成果例 028【H30年度】密度汎関数法に基づいた励起状態計算メモリ分割版プログラムの高度化理化学研究所 計算科学研究センター 量子系分子科学研究チーム
- 中嶋 隆人、神谷 宗明
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成果例 027【H30年度】メモリ分割版プログラムと太陽電池シミュレータの高度化理化学研究所 計算科学研究センター 量子系分子科学研究チーム
- 中嶋 隆人、澤田 啓介、神谷 宗明
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成果例 026【H30年度】酸化還元準位を定量的に求める方法論神戸大学 大学院科学技術イノベーション研究科
- 天能 精一郎、上島 基之、XU ENHUA、島崎 智美
神戸大学 システム情報学研究科- 土持 崇嗣
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成果例 025【H30年度】ポストPHF法の実証計算(遷移金属錯体)神戸大学 大学院科学技術イノベーション研究科
- 天能 精一郎
神戸大学 システム情報学研究科- 土持 崇嗣
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成果例 024【H30年度】バルク系の高精度バンドモジュレーション電子状態計算神戸大学 大学院科学技術イノベーション研究科
- 天能 精一郎、西口和孝
神戸大学 システム情報学研究科- 土持 崇嗣
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成果例 023【H30年度】完全結合クラスター還元法(FCCR法)の開発神戸大学 大学院科学技術イノベーション研究科
- Xu Enhua、上島 基之、天能 精一郎
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成果例 022【H30年度】モデル空間量子モンテカルロ(MSQMC)法の研究開発神戸大学 大学院科学技術イノベーション研究科
- 天能 精一郎、上島 基之
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成果例 021【H30年度】結合クラスター近似(ECCSD)法の研究開発神戸大学 大学院科学技術イノベーション研究科
- 天能 精一郎
神戸大学 システム情報学研究科- 土持 崇嗣
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成果例 020【H30年度】ポストPHF法の研究開発神戸大学 大学院科学技術イノベーション研究科
- 天能 精一郎
神戸大学 システム情報学研究科- 土持 崇嗣
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成果例 019【H29年度】ハロゲン化鉛ペロブスカイト太陽電池の電荷分離メカニズム東京大学 大学院工学系研究科
- 山下 晃一、浦谷 浩輝
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成果例 018【H29年度】「京」によるペロブスカイト太陽電池の新材料候補の探索理化学研究所 計算科学研究センター 量子系分子科学研究チーム
- 中嶋 隆人、神谷 宗明、中塚 温、嶺澤 範行、米原 丈博、澤田 啓介、植村 渉、Rahul Maitra
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成果例 017【H29年度】分子集合系における光化学反応電子動力学の解明に向けた量子ダイナミクス法の構築理化学研究所 計算科学研究センター 量子系分子科学研究チーム
- 中嶋 隆人、神谷 宗明、中塚 温、嶺澤 範行、米原 丈博、澤田 啓介、植村 渉、Rahul Maitra
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成果例 016【H29年度】時間依存密度汎関数法に基づく非断熱分子動力学法の開発理化学研究所 計算科学研究センター 量子系分子科学研究チーム
- 中嶋 隆人、神谷 宗明、中塚 温、嶺澤 範行、米原 丈博、澤田 啓介、植村 渉、Rahul Maitra
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成果例 015【H29年度】時間依存密度汎関数理論のメモリ分割版大規模超並列計算プログラムの開発理化学研究所 計算科学研究センター 量子系分子科学研究チーム
- 中嶋 隆人、神谷 宗明、中塚 温、嶺澤 範行、米原 丈博、澤田 啓介、植村 渉、Rahul Maitra
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成果例 014【H29年度】密度汎関数理論のメモリ分割版大規模超並列計算プログラムの開発理化学研究所 計算科学研究センター 量子系分子科学研究チーム
- 中嶋 隆人、神谷 宗明、中塚 温、嶺澤 範行、米原 丈博、澤田 啓介、植村 渉、Rahul Maitra
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成果例 013【H29年度】PHFソルバーの検証(超微細構造定数(HFC))神戸大学 大学院科学技術イノベーション研究科
- 天能 精一郎、大西 裕也、土持 崇嗣、上島 基之、Xu Enhua
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成果例 012【H29年度】PHFソルバーの検証(構造最適化)神戸大学 大学院科学技術イノベーション研究科
- 天能 精一郎、大西 裕也、土持 崇嗣、上島 基之、Xu Enhua
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成果例 011【H29年度】PHFソルバーの検証(純粋スピン状態の構造と超微細構造定数)神戸大学 大学院科学技術イノベーション研究科
- 天能 精一郎、大西 裕也、土持 崇嗣、上島 基之、Xu Enhua
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成果例 010【H29年度】イニシエータ近似モデル空間量子モンテカルロ法(i-MSQMC)神戸大学 大学院科学技術イノベーション研究科
- 天能 精一郎、大西 裕也、土持 崇嗣、上島 基之、Xu Enhua
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成果例 009【H29年度】ポストPHF法の研究開発神戸大学 大学院科学技術イノベーション研究科
- 天能 精一郎、大西 裕也、土持 崇嗣、上島 基之、Xu Enhua
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成果例 008有機無機ペロブスカイト材料の光電荷移動機構、自由キャリア生成機構解明に向けたクラスターモデルの構築を開始した。東京大学 大学院工学系研究科
- 山下 晃一、藤井 幹也、三嶋 謙二
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成果例 007エキシトンのドナー材料・アクセプター材料界面での電荷分離過程を高効率に起こす有機材料を探索する具体的な対象範囲、効率的な方法について指針を示すことができた。東京大学 大学院工学系研究科
- 山下 晃一、藤井 幹也、三嶋 謙二
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成果例 006大規模系である有機太陽電池材料の高速・高効率な電子状態計算を実現するため、新しい低次スケーリング計算法PSGAP法を開発し、太陽電池シミュレータのベースとなるNTChemに実装し、有効性を実証した。理化学研究所 計算科学研究機構 量子系分子科学研究チーム
- 中嶋 隆人、神谷 宗明、中塚 温、嶺澤 範行、米原 丈博、澤田 啓介、植村 渉
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成果例 005京・ポスト京で、大規模系である有機太陽電池材料の高速な励起状態計算を実現するため、高効率な時間依存密度汎関数法のアルゴリズムを開発し、太陽電池シミュレータのベースとなるNTChemに実装し、有効性を実証した。理化学研究所 計算科学研究機構 量子系分子科学研究チーム
- 中嶋 隆人、神谷 宗明、中塚 温、嶺澤 範行、米原 丈博、澤田 啓介、植村 渉
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成果例 004太陽電池シミュレータのベースとなるNTChemを用いて、有機薄膜太陽電池の有力な材料であるフラーレンの物性の変化を理論予測した。理化学研究所 計算科学研究機構 量子系分子科学研究チーム
- 中嶋 隆人、神谷 宗明、中塚 温、嶺澤 範行、米原 丈博、澤田 啓介、植村 渉
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成果例 003スピン射影(PHF)法により天然光合成光システムIIの酸素発生中心であるマンガンクラスタの純粋なスピン状態の計算を可能にした。神戸大学 大学院科学技術イノベーション研究科
- 天能 精一郎、大西 裕也、土持 崇嗣、上島 基之、Xu Enhua
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成果例 002光合成における電荷分離状態や水分解反応を精密に取り扱うために、新しい電子相関手法であるECISD法を開発し、光合成シミュレータのベースとなるGELLAN量子化学プログラムに導入し、有効性を実証した。神戸大学 大学院科学技術イノベーション研究科
- 天能 精一郎、大西 裕也、土持 崇嗣、上島 基之、Xu Enhua
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成果例 001露わに相関した二次のグリーン関数法により電子除去(イオン化)エネルギーの大規模・高精度計算を可能にした。神戸大学 大学院科学技術イノベーション研究科
- 天能 精一郎、大西 裕也、土持 崇嗣、上島 基之、Xu Enhua
サブ課題 A 研究体制
太陽電池シミュレータ(理化学研究所)、光合成シミュレータ(神戸大学)、機構解明(東京大学)の3つの研究チームが研究開発を行っています。
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サブ課題責任者天能 精一郎教授神戸大学 大学院科学技術イノベーション研究科
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サブ課題実施者中嶋 隆人TL理化学研究所 計算科学研究センター
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サブ課題実施者山下 晃一特任教授京都大学 学際融合教育研究センター 触媒・電池元素戦略ユニット
サブ課題 A 実施計画
平成31年度までのシミュレーション技術の確立と実証と先行的成果の創出に向けて、年度ごとに目標を立てて研究開発に取り組んでいます。