サブ課題A 成果例025
神戸大学 大学院科学技術イノベーション研究科
- 天能 精一郎
神戸大学 システム情報学研究科
- 土持 崇嗣
【H30年度】ポストPHF法の実証計算(遷移金属錯体)
水素発生系モデルの遷移金属錯体[Fe2S2(SCH3)4]2-のように複雑に縮退した分子では、分子振動モードに隠れてしまうほど非常に小さなエネルギー分裂を引き起こし、実験的に解析を行うのは困難である。遷移金属錯体の計算によく用いられる密度汎関数理論ではHeisenberg結合定数の予測が310 cm-1と、既知の類似化合物[Fe2S2(S2–o-xyl)2]2-の実験値148±8cm-1から大きく乖離しており信頼性に乏しいことが知られている。そこで高精度な計算による予測を行うことを目的として、ポストPHF法を用いてHeisenberg結合定数を算出した。その結果、配置間相互作用(ECISD+Q)及びECCSDではスピンギャップs=1に対して162.1, 184.3cm-1となり[Fe2S2(S2–o-xyl)2]2-の実験値を程良く再現し合理的な結果となった(図1)。一方でより高コストな密度行列繰り込み群法SCF(DMRG-SCF)では234.6cm-1であるが、これは十分な動的電子相関を加えておらず定量的結果に至らなかったためと考えられる。以上から、遷移金属錯体計算におけるポストPHF法の優位性を示せた。